本文36-37ページから抜粋
見知った人を見かけた病院のロビー、声はかけなかった。
奥さんに腕を引かれて元気だったあの人が
「俺もああなるのかなー」と頭をかすめる
変えられないものが順番に確実にやってくる。
見渡すと手を引かれた自分が歩いて来て
「すいません」と小さい声で会釈した。黙って見送り我に帰ると
隣で妻が本を読んでいる、何事も無かった様に
遠いと思っていたものが実は近いと知る時だった。
帰り道「幸せかい」と聞きたかったが他愛もない話しか出来なかった
いつも言い出せない昭和の男「もう時間がないよ」と高層ビルが言っている
「分かっているよ」と苛立つ心も昭和の男、令和の街角は似合わないが
知ろうとする心より信じ合う心と気づかされ
「聞くよりもね!」と小声で返し妻の後を追って行く。